宮崎県西都市を中心に活動している宮崎合気道会グループ「合気道元徳会」道場長による武道コラム - サムライハートSamurai Heart。私達は、合気道の素晴らしさを一人でも多くの人に伝えたいと考えています。興味のある方は、ぜひ一度見学にお越しください。詳細は、合気道元徳会のホームページをご覧ください。

2017年7月31日月曜日

武術心法7

 「心法」とは心の働きの総称のことです。


 また、意識を用いたテクニックを「心術」と表現します。


 そして、極意とは、意識(無意識の領域を含めた)の働きを極めることと考えられます。


 さて、合気道の目的は「至誠の人」を育成することにありますが、二代目道主である植芝吉祥丸先生は「武道家のこたえ」という書籍の中で、合気道の目的を次のようにも述べられています。


 『コマが回る状態に例えていう「澄み切りの境地」を求めるのが合気道の目的ということです』


 ‥なんと合気道の目的は、「澄み切りの境地」に至ること!だったのです。


 この「澄み切りの境地」は、「明鏡止水」という別表現もあり、一般的にはこちらを使用しますね。


 参考までに、出典は荘子と言われていますが、辞書によると「曇りのない鏡と静かな水。なんのわだかまりもなく、澄みきって静かな心の状態」のこと。


 武道的には、「心の鏡を磨ききって、相手の心の動きが分かる境地」と言えるのでしょうか。


 結局のところ、日本武道の目的は「澄み切りの境地」や「明鏡止水の境地」に至ることであり、武道家が晩年に禅を組んだり、滝行をしたりなど様々な宗教的行法を行うのもここの重要性に気づいたからなのでしょう。


 達人と呼ばれる方が、最終的に宗教家なのか武道家なのかよく分からなくなったりするのも、これが原因だと思われます。


 さて、「澄み切りの境地」に至ればどうなるのでしょうか?


 それは、武術的にはいわゆる「後出しじゃんけん」が可能になるようです。
 敵の攻撃が未然に察知でき、その攻撃を未発に終わらせることが可能になる・・・。


 合気道開祖の話に、「キリスト教では右の頬をぶたれたら、左の頬を差し出しなさいと教えているが、合気道では、右の頬を打ってくれば、それを未然に察知し打たせないことで、自分も被害を受けずに相手に罪を犯させない」、というようなものがあるのですが、本当に素晴らしい思想だと思います。


 私もこのような境地に一歩でも近づきたいと考えています。


 最後に、古流剣術の言葉、

 「雲晴れてのちに光るとおもうなよ もとより空の有明の月」


 「武術心法」終わり


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2017年7月24日月曜日

武術心法6

 このようなことで、“空間的な崩し”には、いわゆる「読み」という技術が最も必要になります。


 いわゆる心眼が開く必要があると言うこと。


 ここでようやく「一眼、二足、三胆、四力」の順番の重要性が理解できることになります。やはり、目が大事!


 この「読み」には、①「相手の構えや体勢の崩れなどから相手の攻撃を把握する技術」と、②「観の目といわれる一種の予知能力に近い、相手の攻撃が未発のうちに理解できる技術」に分かれます。


 なお、「観の目」(感性の目、心を読む目)とは、「自分の心で、相手の心を感じる」手法だと考えています。


 ご存じの方も多いと思いますが、合気道開祖植芝盛平先生の逸話として、銃弾を避けることができたというものがあります。


 内容は、「弾が飛んでくる前に“黄金の弾(玉ではない)”が飛んでくるので、これをよければいいんじゃ」という話ですが、私は、この観の目の延長線上にあるものではないかと考えていますが、皆さん、いかがお考えでしょうか。


 それでは、「観の目」はどのようにしたら身につけられるのでしょう?


 これについて、古武道の伝書などで書かれているものを集約し現代語に訳しますと下記の通りになります。


 それは、「姿勢を整え、思考回路を縮小し、耳を澄ましていくことで、脳内ではその瞬間、何者にもとらわれずに集中しきっている状況が生まれる。これを持続させていけばよい」ということです。


 皆さん、禅と似ていると思いませんか。


 きっとこのような理由で、禅との密接な関係が生まれたように思われます。


 また、一見意味の分からない短い言葉を唱え続けることでも同様の効果が生じるようです。


 祝詞や念仏などを唱え続けてみるとよくわかりますが、いつの間にか何も考えていないような状態が生じます。


 このことを私は、タイ捨流で悟りました。


 なお、私には科学的な説明はできませんが、このような状態を維持し続けることで、その瞬間は目標対象物に対する感度が上昇するようです。


 しかし、「澄み切り」(明鏡止水)の状態から、心が少しでも動揺した時点でその感度は急降下します。


 このことを表現した言葉、

 「濁り江にうつらぬ月の光かな」 善吉和尚


 そして、このことの重要性に気づいた人の言葉、

 「稽古とて外に求むる道もなし 心の塵を払ふばかりぞ」 示現流兵法


‥つづく


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2017年7月17日月曜日

武術心法5

 “空間的な崩し”とは、さまざまなパターンが考えられますが、紙面の関係上、一例に絞って説明したいと思います。


 これは、私が 「キックミットの理」 と呼んでいるものなのですが、例えばDさんが、Eさんの練習のためにキックミットを持って蹴りを受けていたとします。


 Dさんが「この場所に蹴れ!」と叱咤(ポイント)します。


 Eさんは、その位置に思いっきり蹴りを放ちます。


 しかしDさんは、Eさんが蹴るときの「け(る)」のタイミングでキックミットの位置をわずか15センチほど移動させたとします。


 Eさんは、蹴るの「け」の字のタイミングで目標地点が移動したためうまく蹴ることができません。


 またまた、妙な例えで恐縮なのですが、弓でも吹き矢でもよいのですが、的を狙っていて、“いまだ!”の「い(まだ)」の字のタイミングで的がずらされたとしたら…、きっと身体機能にパニックをおこし力が発揮できなくなることでしょう。


 つまり、相手から狙われている部分を未然に察知し、殴るの「な(ぐる)」の字のタイミングで、狙われた部分を移動させるのです。


 また、この瞬間に相手が物理的に崩れる位置に移動するとさらに効果を発揮します。


 本当の体捌きとは、このような技術のことを言うのではないかと思います。


 宮本武蔵は、五輪書に攻撃の「こ(うげき)」のタイミングを押さえて何もさせないことを「枕を押さえる」と表現しています。


 ちなみに先ほどの例は、枕を押さえずに崩しに応用した一例となります。


 この技術には、「空気が読める」ということが必須条件で、しかも、相手が自分のどこを狙っているのか把握できる知覚レーダーが過敏すぎるくらい発達している必要があります。


 何か文章にすると小難しく聞こえますが、剣道などの打突系の武道をされた方には当たり前の技術で、いつの間にか自然に覚えていたテクニックの一つだと思います。


 また、私は、仕事の交渉術として使っています。


 例えば交渉中に、相手が「お断り」など言いにくい事案をどのタイミングで切り出そうかとモゾモゾしているのを察知し、「さて、言うぞ!」の“さて”ぐらいのタイミングで、「あーそういえば…」と話を他の話題に切り替えてしまうのです(笑)。


 きっと、社会人の皆さんは心当たりがあるのではないでしょうか?
 でも、やりすぎると嫌われてしまいますね。


 また、飲み会の席などで、「グラスが空になりそうだけど自分で注ぐのも…」という意識を感じて、ボトルを差し出すのも同じ道理です。


 しかし、実際の打ち合いで使用するのはなかなか骨が折れることです。


 このような技術は、相手とのレベルに歴然とした差異がある場合、若しくはその技術がハイレベルな場合でしか効力を生じません。


 そして、最大の欠点は、心が動揺した時点で効力が生じなくなってしまうことです。


 つまり、このような技術の欠点は、自分より上手の相手には一切通用しないということ!


 やはり「生兵法は怪我のもと」のようです。
 ご注意を‥。


‥つづく


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2017年7月10日月曜日

武術心法4

 「術」を「道」にまで昇華させた剣聖の創造した兵法とはいかなるものなのでしょう?


 さて、ここでAさんがBさんに勝利する二つ目の考え方がでてきます。


 それは、Aさんが“戦闘力100”を保ったまま、Bさんの“戦闘力100”を、なんらかの技術を用いて、“戦闘力50”に落とすなど、戦闘力を減少させてしまう勝ち方です。


 これでAさんの戦闘力がBさんを上回り、戦いに勝利することが出来ます。


 私は、この相手の「戦闘力を減少させる技術」が、日本武道における兵法の根底になったものだとみています。


 何か小難しく書いてしまいましたが、そんなことはありません。


 私たちの合気道や柔道などで用いる「崩し」と呼ばれる技術が一つの例として挙げられますす。


 この「崩し」にも、実は“物理的な崩し”と“空間的な崩し”が存在し、その「空間的な崩し」には心術が用いられます。


 “物理的な崩し”とは、合宿などで説明している「ドラムカンの理」と呼んでいるものが代表されると思います。


 これは、「B地点からC地点にドラムカンを移動させたい場合にどうするか」を考えると理解しやすいため、例えとして「ドラムカンの理」と表現しています。


 さて、この場合、ほとんどの人はドラムカンの側面を押して斜めにし、地面に接地する部位の面積を減少させることでドラムカンを体感的に軽くし、底面の縁をコロコロとさせながらC地点まで移動させると思います。


 これが「ドラムカンの理」。


 この理を武術に応用すると、相手に接触した瞬間に、相手の重心をつま先か踵に一瞬で移動させ、相手が 「つま先立ち」 もしくは「浮いた」 状況をつくりだすと相手は一瞬ですが、物理的にも精神的にも居着いた状態になります。


 私はこれを「物質化する」とか「モノ化する」と呼んでいますが、この状態になると思考回路は一瞬だけ寸断され、かつ身体は硬直化します。


 この時を逃さずに、斬ったり、突いたり、投げたり、倒したりするのが基盤となり構成されているのが“物理的な崩し”を用いた戦闘法です。


 なぜ、思考回路が一瞬寸断され、かつ身体が硬直化するのでしょうか?


 私には科学的な説明はできないのですが、人間が何かにつまずいて転ぶ瞬間というものは、急激に身体を支える重心がなくなることで、身体機能が一瞬機能しなくなるのではないかと考えています。


 また、「溺れるものは藁をも掴む」にありますように、身体機能が一瞬パニックを起こすと言う風にも考えられます。


 例えは違いますが、人によっては、実際に掴んでいる手がくっついたまま離れなくなることもありますね。


‥つづく


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2017年7月3日月曜日

武術心法3

 結局、石ころの投げあいや棒切れなどを持っての戦いに始まった闘争が、集団になることで戦争になり、敵より強い武器や戦術を開発することで戦闘能力を上昇させ続けていく。


 21世紀である現代は、その過程で核爆弾・化学兵器の開発に至り、悲しいことに自らがその脅威にさらされ続けている・・・。


 愛するものや家族、そして、国家を守るため、また、誇りを失わないため“戦闘能力を上昇させ続ける”という殺し合いの螺旋に陥り、ついには、核兵器の開発に至ってしまったのでしょう。


 フランケンシュタインを創った科学者の「こんなはずじゃなかった」という嘆きに似ていて、なんともやりきれない気がします。


 しかし、悪い面ばかりでもありません。


 ヒッタイト人による鉄の発明や中国での火薬の開発、そしてインターネットが米国の国防総省による軍事目的での開発が趣旨だったなど、人類に大いに貢献してきた歴史であるとも言えます。


 それはさておき、人類の歴史は戦争の歴史と言われるように、この“殺し合いの螺旋”から抜け出ることは容易なことではなさそうです。


 さて話は変わりますが、なんでも幼少の頃、自分がいじめた(全く記憶にない)らしい相手から数十年後の同窓会の席で「やまいもを掘られる」(酒の席で絡まれるという意・宮崎弁)ことでもその難しさがよく理解できます(笑)


 少し脱線しましたが、日本では、戦国乱世に生きながら、在る時、この殺し合いの螺旋の無意味さや滑稽さに気がつき、相対的な術を越えることで法を志向し、武術を兵法、そして道へと昇華させた人物がいました。


 その代表的な人物として、新陰流兵法を創造し剣聖といわれた上泉伊勢伊守藤原信綱 がいます。


 さて、この昇華させた過程について、新陰流・武術探求会の前田英樹氏は下記のように述べています。


 「ある術を身につけて少しでも達者なほうが勝つとか、ちょっとでも油断したら負けだとか、あるいは石につまずいたら負けだとか、そんなことで命を捨てるというのはやり切れない。そういうことだったと思うんですよ。

 たとえば誰かがある技を編み出した。それに対して別の者がそれに対抗する技を考える。または、上回る技を考える。

 技術と言うものは際限なく更新されていくんです。心理戦にしたってそうです。技術の相対性から抜け出せない。いったいどうすればこの世界から脱出できるのかそういう一種の祈りに似た思いから、兵法が生まれたのだと思います」


 この「なんともやりきれない気持ちや一種の祈りに似た思いから兵法が生まれた」という表現は哲学科の教授らしく、たいへんわかりやすく、これ以上にない素晴らしい表現ですね。


‥つづく


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2017年6月26日月曜日

武術心法2

 随分以前のこと、一時期、政治家の秘書として、国会を中心に、興味本位から政治の世界を見てまいりましたが、その時の感想が「武術の戦いと似ている‥」というものでした。


 政治の世界では 「政治は力、政治は数」という単純な言葉が真理であり、学生時代に教わった「この世は民主主義の学校」なんていうのは嘘‥、権力闘争こそが政治の真実だということを学びました。


 “物知りのおちょぼ口の青っ白い正義感”などは数の力の前に一蹴され、悲しいかな負け犬の遠吠えの如き扱いを受ける‥。


 政治の世界は、「正しいことをしたければ偉くなれ。 良いことをしたければ数を集めろ」 が真実だと言えます。残念ですが、制度的にそうなっています‥。


 このため、還暦を過ぎた方々が白髪を黒々に染めあげ、しかも整髪料でギラつかせ、周囲を睥睨し威圧する。


 しかし、、負け犬も負けたばかりでは終われない。


 奮起した負け犬が真実を学び、その真理を実行することで勝ち組を追い詰め、ついに自分が勝ち組に成り代わる。


 しかし、この世は栄枯盛衰、盛者必滅‥。


 せっかく手に入れた勝ち組のポストも、自分が追い詰めた以前の勝ち組から追い詰められ、長年かかって手に入れたポストを追われていく。


 でも、臥薪嘗胆、いつかまた‥。


 際限なく権力闘争の螺旋が繰り返されていく‥。


 少々さびしい気がするのは私だけでしょうか?


‥つづく


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2017年6月19日月曜日

武術心法1

 問題です。


 AさんとBさんが戦うことになりました。

 Aさんは、仮に戦闘能力を「100」持っているとします。

 Bさんも同じく戦闘能力を「100」持っています。

 なお、個々の戦闘能力は、一長一短なく同じレベルです。

 さて、Aさんは、Bさんとの戦いにどのようにすれば勝つことができるのでしょうか?


 ‥勝負というものは相対的なものですので、実際の戦いには戦闘能力以外の要素も加わってきますが、それはさておき、一般論として2種類の考え方があるのではないかと思います。


 一つ目は、戦う期日まで時間がある場合には、Aさんは戦闘能力を高めるためにトレーニング等を重ね、「戦闘能力100」を『戦闘能力120』に高める努力をするはずです。


 このトレーニングにより、AさんはBさんを超えた戦闘能力で戦いに勝利することができます。


 このことは、車のF1レースの世界で、飛躍的にエンジンの性能を伸ばすことで馬力を大幅にアップし、その馬力でレースに勝利することに似ています。


 また、太平洋戦争において、ゼロ戦対米軍戦闘機の戦いで、操縦の技術ではゼロ戦がかなり上!と言われながら敗北したことにも似ています。


 生半可なテクニックや精神力では、残念ながら多大に上回る馬力や勢いに通用しなかった例ですね。


 この欧米的な考え方は、たいへん有効です。
 世界の歴史が証明しています。


 例えば、某フルコンタクト空手の流派がパワー空手を推奨し、ウェイトトレーニングやサーキットトレーニングを取り入れ一世を風靡したのも有効である証でしょう。


 さてここで、もう一度考えていただきたいのですが、実はBさんが大金持ちで、潤沢な資金を活用し、世界中から名トレーナーを集め、Aさん以上に科学的なトレーニングを行いながら、世界最高のテクニックを学ぶことで「戦闘能力が150」にアップしていたとしたら?


 Aさんは、Bさんの餌食となってしまうことでしょう。


 パワーは年齢とともに衰え、技術は限りなく進化し更新されていきます。


 次にあなたは、「戦闘能力200」を目指すのでしょうか・・・。


 ‥つづく


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